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パチプロの世界から足を洗い長谷部商事に入社して順風満帆の人生を送る・・・ 筈だったのだが・・・・・・

入社して数ヶ月、どこから漏れたのか副社長の放火および殺人未遂が週刊誌に暴露、 あげく卓男が児童買春禁止法違反で逮捕され、スキャンダルに告ぐスキャンダルで 一流商社だった長谷部商事は今や見る影も無く・・・

そういう時真っ先に切られるのは一番下っ端と相場は決まっており


ギャンブルと酒浸りの日々が始まった。


恋人である小川美佐子をキャバクラに復帰させ、自身はギャンブルと酒浸りの生活を送り・・・ 気がつけば借金は雪ダルマ式に増え、借金を返す為に借金をするという悪循環にはまって行く。


とうとう美佐子に愛想をつかされ、残ったのは借金のみ・・・

気がつけば到底返す事の出来ない額になっていた・・・
そして辿り着いたのは・・・・・・・・・



行き詰まった者たちを集めての一夜限りのギャンブル船・・・




賭博黙示録 ヨシダ



賭博黙示録 ヨシダ 2

今となっては金利がまた新たな金利を生むという最悪の展開。
最早地道に返済してゆくのは殆ど不可能という状況だ・・・







言ってみれば・・・このギャンブルは再起不能の俺たちに与えられた最後のチャンス・・・!


――希望の船 エスポワール号




なんか知らんけどお金いっぱい持ってきた!くれんの!?


どうやらタダというわけではなく、これから始まるギャンブルの軍資金として貸してくれるらしい。

だが最低100万は必ず借りないといけない上に 利率1.5%、つまりギャンブル終了後に4割ほど上乗せして返済せねばならない。


ふざけんな!その金利って考え捨てろよっ・・・!と詰め寄りたい所だが、ここに至っては仕方ない。

「吉田だ!100万!」
どうだこの俺の躊躇の無い借りっぷり。漢らしいぜ・・・と自己陶酔に浸っていると



げ、限度(1000万)までだと・・・!


その後も船井に影響されたのか


限度まで借りるやつが続出する。


確かにどんなギャンブルが待っているかわからない以上軍資金は多いにこした事は無いが、 限度まで借りた場合返済額は400万プラス・・・

大勝した場合でも最高でどれだけの儲けが出るかわからない状況では、限度まで借りるのは愚の骨頂・・・
などと、いっぱしの勝負師を気取っていると



『先ほど入り口で配布した袋を開封してください・・・!』



中にはグーチョキパーが描かれたそれぞれ4枚・計12枚のカードと、星が入っていた。


ギャンブルの内容は、グーチョキパーが描かれたカードで参加者同士でじゃんけんをし星を奪い合うという 単純明快なもの。

だが・・・事ここに至っては運否天賦ではない・・・
何か必勝法があるはずなのだ・・・!






賭博黙示録 ヨシダ 3

事ここに至っては運否天賦ではなく、何か必勝法があるはずだ。
多分、いやまあ、もしかしたら無いかもしれないけど、無かったらどうしようもないので きっと何かあるはずなのだ・・・!

勝負は4時間ある。暫くは様子見だ。



ん?



こいつの名は船井譲次。
過去に何度かこのギャンブルに参加している「リピーター」らしい。

『・・・・・・オレと組めへんか?』

なに・・・?


奴が提案したのは「あいこでカード消費」というものだった。

ギャンブルだから当然負ける可能性だってある。
負けた時どうなるのか語られてはいないが・・・
返済能力のない債務者の行く末は良くてタコ部屋、悪くすれば人身売買・・・ 変態金持ちに犬として飼われてゆくか、臓器を抜き取られるか・・・


船井の提案した「あいこでカード消費」は勝ちこそ無いが負けもない、 借りた軍資金の利息が膨らまない内にギャンブルを終わらせてしまおうという案だ。

消極的だがこんなギャンブル船に乗った事自体間違いだったのかもしれない・・・
俺は船井の案に乗る事にした。


『ええか、パーグーチョキの順番やで・・・』


・・・・・・くくくくっ。
言い忘れていたが俺は原作「賭博黙示録カイジ」を読んだ事がある。
これがつまりどういう事かわかるかな?
船井、お前の手の内はお見通しという事だ・・・!

9回はあいこが続き・・・10回目で奴が裏切る。
つまり9回はセーフティー・・・こちらが初回から裏切ればいいのだ。




チェック・・・!




あっ!!



・・・・・・



ふ、ふざけるな!!返せっ!星・・・!


怒りにまかせて船井に掴みかかるも、あっさり黒服に取り押さえられる。

『冷静になれっ。何があったか話してみろ』


こ・・・こいつが・・・!12回連続あいこの約束をうらぎ・・・ったの・・・は?

誰だ・・・?誰だ・・・?誰・・・?








賭博黙示録 ヨシダ4

その後船井に再勝負を持ちかけるも・・・


圧倒的敗北・・・!



残りカード10枚、残り星・・・1つ・・・。


運命の時はは刻一刻と迫ってくる。

残り時間は4時間を切った・・・
タイムオーバーになる前に勝負を決めなければならないのだが・・・・・・怖いっ!
負けて全てを失うのがどうしようもなく、怖いのだ。


いい年こいて人前で泣くのはアレなので、トイレの個室で思うさま泣こう・・・



トイレ前の休憩所では恐らく同じ境遇、残り星一つになった者たちが居た。


浜に打ち寄せられた朽木のように集められ、皆 一様に頭を抱えている・・・
自暴自棄、ただ落ち込み落涙。運命を呪う者たちの群れ・・・

そう・・・ここは皆の前で泣くのは恥ずかしいので隠れて泣こうと吸い寄せられてきた、 落伍者の中の落伍者の為の涙の部屋・・・!



あ、あんたは・・・伊藤カイジ・・・!



『あんたさっき船井とかいう胡散臭いやつに誘われて・・・結局は破綻した。そんな所だろう?』

み、見ていたのか!?



なんか目とか泣いてたっぽい形跡があるけど・・・もしかしてあんたも騙された口か?



実体験のこめられた含蓄あるお言葉。


そうだ、もえぎの高校で番張ってた頃も・・・塚内町でパチプロやってた頃も・・・ 人には頼らず自分の力だけでのし上がってきてたんだ・・・





賭博黙示録 ヨシダ5

泣いていても始まらない。
幸い船井から得た「あいこでカード消費」の技がある。
頭の回転の遅そうなカモを見つければ勝てるかもしれない・・・!

と涙部屋を出ると・・・






卓男じゃないか!お前もここまで落ちてきてたのか!!


地獄の底で知り合いに会えるのは心強・・・いや待て・・・


あいこでカード消費ってのはな・・・


説明を終えると卓男は目を輝かせて


こいつ・・・もしかして演技か・・・?





チェック・・・!演技で無い事を祈る・・・



やっぱりただのバカでした!ラッキー!!



パチプロやってた時散々バカにしやがった報いだ!



臓器抜き取られるか人買いに貰われてくか知らんが、元気でな!豚男!!



賭博黙示録 ヨシダ6


豚から星を騙し取り、なんとか首の皮が繋がった。

・・・のもつかの間・・・



ヒゲ親父に負け、また星を一つ失う。


「あいこでカード消費」で簡単に騙せる相手はそうそうおらず、 つまり俺に残された技は運否天賦しかなく・・・




『うわーーー!や、やめてくれーー!!』



悲鳴の聞こえた方を見ると、暴れる男とそれを取り押さえる黒服・・・



あれは・・・別室に連れてかれてるのか・・・
下手すればあれは数分後の自分の姿かもしれないと思うと寒気がする。



なんだ?


『さっきの勝負見てたんだが、あんたあのヒゲ親父にハメられたんだよ』

な、なんだって・・・!?


あいつの手口とは、あらかじめ2種類のカードを重ねて持っておき、 チェックの瞬間、机に反射して映った相手のカードに応じて2種類のカードを引っ込める・・・
手先の器用さと目の鋭さが必要になるが、勝ちかあいこ、少なくとも負けはない・・・

そしてこのおっさんは目は良いが手先が器用ではないのでこの技は使えず、手先の器用な相棒を探していたとの事。

運否天賦しか手段の無い俺にとって渡りに船、願っても無い共闘のチャンスだ。



よろしくな、ヤクザっぽいおっちゃん!


ターゲットは先ほど戦ったヒゲ親父。
こちらも2枚重ねの技を使って逆にヒゲ親父をやり込めるのだ。
技に絶対の自信を持つあいつなら星3つの勝負にだって乗ってくるだろう・・・という作戦だ。

ヤクザから星3つを預かり、ヒゲ親父のもとへ勝負に向かう。



すり替えは見事に成功し・・・星3つ獲得!!



休憩室に戻ると・・・



ん・・・誰だ?そいつらも新しい仲間か・・・?


『いや、仲間なのは・・・



こいつらだけさ・・・』



な、何を・・・!?


3人に袋叩きにされ、あっという間に星を奪われる・・・
俺が何をしたというのだ・・・!



『俺の作戦で稼いだんじゃねえか。駄賃に星1個くれてやる・・・
星が一個増えただけでも涙流して喜ぶのがスジだぜ・・・くくく』






賭博黙示録 ヨシダ7

一気に星3つ獲得・・・と思いきや、相棒に騙され星を失う・・・

だがこれで星は2つになった。プラスかマイナスかで言えば当然プラスだ。
殴られた体はあちこち痛むが、運はこちらに向いてきた。勝負の時だ。



だったらこんな連中、2枚重ねトリックで簡単に勝てる!



そしてセットの寸前にすりかえる。
ロンゲの兄ちゃんよ、この勝負・・・もらった!



後ろのサングラス、ちゃんと見たか?俺のカードを・・・くくく。


これで・・・ようやく前へ進める・・・っ!



ロンゲの後ろに居るのはさっき負けていたデブ・・・!

ま、まさか・・・こいつら2人組じゃなくて・・・3人組だったのか・・・!?



こいつら初めから俺がトリックを使うのを知っていて・・・
全ては俺を騙す為の・・・芝居・・・! あのデブはおとりだったんだ・・・!!



『オッサンがその技を使える事を知っているのは・・・』






泥沼の中を一歩前へ進んだはずなのに・・・踏み込んだその足は再びぬかるみに沈んでゆく・・・



賭博黙示録 ヨシダ8

星は1つ、残り時間1時間半を切った所で、ある男たちから声をかけられた。



『俺たちの同盟に入らねえか?』


こいつの名前は品川。
情報を武器にし、仲間と共闘しているらしい。

ここまで来た間に仲間が各々集めた情報
―誰が誰と戦い、残り何のカードを持っているか―
を整理し、それをあと1勝で勝ちあがれるヤツに高く売る。
そして星はその情報を使って他の参加者と勝負して獲得する。

この同盟は結構な数の参加者が居て情報の精度もかなり高いらしい。
星も金も楽に稼げるというが・・・



てめえ・・・どうせ俺を騙すつもりなんだろ!
名前からして胡散臭いんだよ!この、えっと・・・金髪デブ!!
この豚野郎、こちとら何回騙されてきたと思ってんだ!養豚所へ帰れ!

・・・・・・・・・

あいつらは見るからに怪しかったが、確かにこのギャンブルを乗り切るには相棒が必要なのかもしれない。
だが・・・今の俺には誰が信じられて誰が信じちゃいけないのか・・・もうわからない・・・!


そんな時・・・・・・



お、お前は伊藤カイジ・・・!



『いや実は俺も買ったんだが・・・』


な、なに!?それじゃ奴らが売ってる情報は出鱈目になるじゃないか!


『おっと。ヤツがまた勝負をするぜ。
見ろ、今度はパーだ!』



『つまりそっくりカードを交換したって事になるな。
ヤツらグルだな・・・間違いない』

まんまとハメられたというわけか・・・
だがこのギャンブル、1人で戦うよりも仲間が居た方が有利なのは確実。

しかし・・・この状況で誰を信じればいいのか最早わからない・・・
このまま他人の食い物にされて終わってしまうのか・・・!!



!!?



賭博黙示録 ヨシダ9

己がために結んだこの場限りの密約・・・
その裏に隠された・・・欲望・懐疑・偽善・・・?

急造の運命共同体が生き残りを賭け歩き出す・・・
それぞれの思惑を胸に抱いて・・・・・・





カイジから共闘の誘いを受ける。

誰も信じられないこのギャンブル船で唯一信用出来る男、伊藤カイジ・・・

その根拠は、彼は賭博黙示録カイジの主人公だからに他ならない。
原作付きのゲームで、ゲームの主人公が原作の主人公でない場合、 ゲーム主人公と原作主人公が共闘する熱い展開があると相場は決まっている。



起死回生、地獄に仏。
星1つの状況を打開出来るチャンスが巡ってきたのだ!!



俺はやるぞ・・・!!



どちらの方が強運か・・・試してみないか?



くくく・・・バカがまんまと乗ってきやがったぜ。





今この時から俺の逆襲劇が始まるのだ!!






セット!!もう待ったは無しだぜ・・・?



やったー!俺のか・・・あれ・・・?



ば・・・ばかな・・・
なぜだ!品川とカードを交換してあいつの手持ちはグー2枚のはずだ!!
だよな、カイジ!!



カ・・・カイジ・・・?


そう、カイジは気付いていたのだ。
小泉の手持ちカードがグー2枚ではないという可能性を・・・

俺と共闘したのは小泉の出方を見る為・・・
俺は・・・カイジにまで裏切られたのだ・・・



『おい!』


ヒィィッ!



『大人しくしろっ!』



終わった・・・何も・・・かも・・・


――カイジのあの言葉が頭を巡る・・・



そう、この船で信じられるのは誰がどうとかそういう事ではなく・・・



自分・・・自分だけだったのだ・・・!――



あのドアの向こうに・・・


選択肢は・・・ない・・・






















27歳でもえぎの高校に入学し、もえぎの高校番長として極東連合を制し、極東沿線に平和をもたらす・・・

卒業後はパチプロとして名を上げてゆき、最強のパチプロとの決着を前にして長谷部商事に入社・・・

その後リストラに合い、安い酒と安いギャンブルに身を落とし、借金を積み重ね・・・

ギャンブル船エスポワールで起死回生のギャンブルを行うも、 星を全て失い・・・別室へ・・・

30年にも満たない吉田輝和の短い人生は幕を閉じるのであった・・・



賭博黙示録 ヨシダ 終わり



そして別室へ……


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